青果店 Green Grocer 2008年(平成20年)
青果店 Green Grocer 2008年(平成20年)
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パンPan (ファウヌスFaunus)
牧場stock farm、とりわけ羊sheepと山羊goatの神god。
父father・ヘルメスHermesと同様、アルカディアArcadiaと密接な関係があった。
彼の名が牧羊者の仕事と結び付けて考えられるのは、それが「羊飼い」ないしは文字通り「餌をやる者」(初期ギリシア語のパオン)を意味するからである。
古代においては様々な者が彼の両親parentsであるとされた。
父fatherとしてはヘルメスHermes、ゼウスZeus、アポロンApollo、クロノスCronusなど、また母motherはカリストCallisto、ペネロペPenelope(おそらくはドリュオプスDryopsの娘daughterの名であろう)、ヒュブリス、それに牝山羊nunny goatである。
いずれにせよ彼の母motherは自分が産んだ者を一目見て仰天して飛び上がり、彼を置き去りにした。
彼は山羊goatの脚legsをして頭には小さな角hornsを生やしていたのである。
それで母motherの代わりにニンフたちnymphsが彼を育てた。
(中世の悪魔のイメージはこのパンPanの姿に由来していた。)
パンPanの奇妙な姿にもかかわらず、ヘルメスHermesは彼をオリュムポスの神々the Olympian godsに誇らしげに見せた。
粗野な神であったパンPanは好色で常にニンフたちnymphsを追い回した。
また彼は羊や牛の繁殖にも責任を負っていると考えられた。
家畜が繁殖しないと、パンPanの像が海葱(かいそう)という植物で打たれた。
パンPanはアポロンApolloほど巧くはなかったが、音楽家でもあった。
ある時リュディアLydiaでコンクールが催され、審判を務めたトモロスTmolusはアポロンApolloに賞を渡した。
この時ミダスMidasは馬鹿な批評を述べてロバdonkeyの耳earsをもらうことになった。
パンPanの楽器はシュリンクス笛Syrinx pipes、すなわちパンの笛Pan's pipesで、その音に合わせてニンフたちnymphsやサテュロイsatyrsがよく踊った。
彼はニンフnymphのシュリンクスSyrinx、あるいはノナクリスに恋をして彼女を追ったとき、その笛を手に入れた。
逃げるニンフnymphはラドン川the River Ladon岸に着いたが、川を横切れないと判断すると絶望して、他のニンフたちnymphsに葦reedに変身させてくれるよう頼み、願いは聞き入れられた。
パンPanは葦reedを切り、長さの違う断片を寄せ集めて葦笛reed pipeを作ったのである。
パンPanはまた月の女神・セレネSeleneに美しい白い羊毛を捧げて彼女を森に誘い出し、愛した。
パンPanはその名から派生した英語のパニックpanicという語が示すように、時として恐ろしい神であった。
とりわけ夜と真昼に眠りを邪魔されると怒った。
彼は牧歌詩人たちに愛され、この点で異母兄弟half brotherのダプニスDaphnisと似ている。
パンPanはダプニスDaphnisを非常に愛し、ダプニスDaphnisが死ぬと嘆き悲しんだ。
パンPanはまたアテナイ人たちthe Atheniansに好意を示した。
紀元前490年のマラトンの戦いthe Battle of Marathon in 490 BCの際、ペイディッピデスがアテナイAthínai(アテネAthens)からスパルタSpartaへと援助を求めに走る途中でアルカディアArcadiaのパルテニオン山を越えようとすると、パンPanが彼の名を呼び、なぜアテナイ人たちthe AtheniansはパンPanがしばしば彼らを助けに行ったにもかかわらず崇拝しないのかと尋ねたという。
そのためマラトンMarathonでペルシア人the Persiansたちが「パニック状態」で遁走し、アテナイ人たちthe Atheniansが勝利をおさめたあと、アテナイ人たちthe AtheniansはパンPanを讃えて神殿を建て、犠牲を捧げ、行列を連ねた。
パンPanはまたギガンテスGigantes(巨人族Giants)がオリュムポスの神々the Olympian godsと戦ったときに、ギガンテスGigantesの心に恐怖の念を起させるような大声をあげて彼らを恐怖状態に陥れたと考えられている。
ローマ人たちRomansはパンPanを森の神・シルバヌスSilvanusと同一視した。
ダプニスDaphnis
シシリア島Sicilyの牛飼い。
母はニンフnymph。
ヘルメスHermesの息子と言われることもあるし、友人もしくは愛人と言われることもある。
ダプニスDaphnisという名(「月桂樹laurel」の意のダプネDaphneから派生した)は、月桂樹laurelの木立の中で生まれたか、あるいは生まれたとき母親が月桂樹laurelの木立の中に彼を棄てたかの理由で、つけられた。
彼は森のニンフたちnymphsのお気に入りとして、彼女たちの間で、またエトナ山Mount Etnaやヒメラの羊飼いたちの間で育てられた。
彼は牧歌の発明者と言われた。
牧歌の主な唱導者たち、とりわけテオクリトスTheocritusと、ウェルギリウスVergilius(バージルVergil)は、彼に特別の敬意を表している。
また彼はアポロンApolloやアルテミスArtemisや、それから彼に笛を与えたパンPanによって保護された。
青年になったダプニスDaphnisは、自分はいかなる恋の誘惑にも耐えて見せると豪語した。
これはエロスErosやアプロディテAphroditeに対する挑戦であった。
しかしこれらの愛の神々はすぐに彼に復讐した。
彼女は川のニンフnymphのナイスNaisあるいはエケナイスEchenaisに激しく恋をした。
初め彼は彼女に恋心を打ち明けようとはしなかったが、しかし結局はその恋心が彼に破滅をもたらすことになった。
彼をやつれさせるほどの必死の恋が彼女の知るところとなり、彼女は、彼に永遠の愛を誓わせ、他の女性には見向きもしないと約束させたうえで、彼の恋人になることに同意した。
しかし人間の女(王女とされる場合もある)であるクセニアXeniaがダプニスDaphnisに恋をし、彼を酒に酔わせて自分に言い寄るように仕向けた。
その背信行為を怒ったナイスNaisは彼を盲目にした。
彼はシュリンクス笛Syrinx pipes(パンの笛Pan's pipes)に合わせて自分の不幸を嘆く歌を歌い、その地方の人々に聞かせて自らを慰めようとした。
しかし、最後に彼は過って川へ落ちた。
ナイスNaisへの誓いを破った彼を川のニンフたちnymphsは助けようとせず、彼が溺れるにまかせた。
この物語には幾つかの異説がある。
ダプニスDaphnisはクセニアXeniaへの報われぬ愛に疲れ、しだいに憔悴していった。
そして最後は崖から落ちて死んだ。
ヘルメスHermesは彼を天へ連れて行き、彼が落ちた地点に、彼の名をつけた泉を湧き出させたとする説。
あるいは、これはプリュギア(フリギア)Phrygia地方に伝わる説であるが、ダプニスDaphnisはピムプレイアまたはタレイアThaliaという名の少女もしくはニンフnymphを愛していたが、彼女が海賊にさらわれてしまった。
彼ははるか遠隔の地まで彼女を探しに行き、ついにプリュギア(フリギア)PhrygiaのリテュエルセスLityerses王の宮廷で奴隷となっている彼女を発見した。
この王は自分とどちらが1日でより多くの穀物を収穫できるかの競争を外来者に強いていた。
常に王が勝ち、外来者は殺された。
たまたまプリュギア(フリギア)PhrygiaにいたヘラクレスHeraclesは、ダプニスDaphnisに代わってこの競争を引き受け、ヘラクレスHeraclesが勝ってリテュエルセスLityersesを殺し、ダプニスDaphnisを代わりに王位throneに据えて、ピムプレイアを王妃とした。
サテュロスsatyr サテュロイsatyrs
ディオニュソスDionysusの酒宴でマイナデスMaenadsに同伴する山野の精。
ヘシオドスHesiodによれば、彼らはヘカテロスHecaterus(ポロネウスPhoroneus王の娘でアルゴスの王女と結婚した)の5人の娘の子孫ということになっている。
姉妹はオレイアデスoreads(山の精)である。
彼らは好色でいたずら好きで有名である。
のちに先のとがった耳、馬の脚や蹄、頭に小さな角といった動物の姿を持つものと考えられた。
また自然界における抑制されることのない豊饒さの化身と考えられた。
彼らが特に楽しんだのはニンフnymphを追いかけることで、彼女たちによって情欲を満たそうとした。
文学では、サテュロスsatyrはシレノスSilenusたちと同様に下劣で滑稽な存在である。
それは、ディオニュソスDionysusの祭礼の折に、悲劇詩人たちのまじめな神話劇を3つ上演したあと、そのような悲劇的でない人物が登場する軽い喜劇を上演して、締め括りとするのが習わしだったからである。
シレノスSilenus
ディオニュソスDionysusの酒宴においてマイナデスMaenadsの年寄りの仲間であったシレノスSilenusは、パンPan神またはヘルメスHermesとニンフnymphとの子だった。
獅子鼻で馬の尾と耳を持ち、禿げ頭で太鼓腹をしていて、しばしばロバに乗った。
もともと水の精である彼は、実用的な知恵があるという評判で、予言の能力があった。
この特性のため、彼は若いディオニュソスDionysusの師であったと考えられ、ディオニュソスDionysusがニンフたちnymphsに育てられた神話上の地・ニュサの王であったと言われる。
ウェルギリウスVergilius(バージルVergil)は、かつて2人の羊飼いがどうやってシレノスSilenusを捕らえたか、またシレノスSilenusが彼らにどのようにして伝説を歌って聞かせたのか、を述べている。
シレノスSilenusはまたプリュギア(フリギア)PhrygiaのミダスMidas王に捕らえられたが、それは王が彼の知恵の分け前に預かりたかったからである。
王は葡萄酒と森の泉の水を混ぜ合わせた。
それを飲んで眠り込んだシレノスSilenusは、王の従者に捕らえられてしまった。
従者たちがシレノスSilenusを王の前に連れて行くと、彼は王に人生の奥義を伝えた。
すなわち、人間にとって最善は決してこの世に生まれないこと、そして次善はできるだけ早く死ぬこと、であると。
シレノスSilenusはニンフnymphとの間に多くの息子(シレニSileniと総称される)をもうけた。
悲劇作家らの書いたサテュロス劇の中での彼ら(シレニSileni)は、外見上はシレノスSilenusに似ていたものの、シレノスSilenusに備わっていた賢明な年老いた預言者の面影は薄い。
臆病者でありながら、常に勝者でありたいと願っていたからである。
また彼ら(シレニSileni)はニンフたちnymphsに手を出さないではいられないという点で、サテュロイsatyrsに似ていた。
ソクラテスは、体つきと議論の仕方がシレノスSilenusに似ていたため、彼と比較された。
マイナデスMaenads マイナスMaenad
「狂女たちMad women」の意。
ディオニュソスDionysusに従い、狂ったような恍惚状態のうちに山中で歌、踊り、音楽を用い、ディオニュソスDionysusの儀式を執り行った女たちfemale followers。
子鹿や豹の毛皮をまとい、松かさを端につけた杖(テュルソス)を持ち、蔦や樫の葉や樅の木を頭飾りにしていた。
また松明や葡萄の房を手にしていた。
彼女たちは通常のしきたりを意に介さず、大いなる肉体の力を与えられて、野獣を八つ裂きにし、貪るように食べた。
アジアAsiaにいたマイナデスMaenadsはリュディアLydiaからギリシアGreeceへと勝ち誇るかのように突き進むディオニュソスDionysusに従った。
ギリシアGreeceでは夫たちが不快に思って邪魔をしようとしたが、そんなことにはお構いなく、マイナデスMaenadsに加わった。
テバイThebesのペンテウスPentheusは彼女たちを覗き見しようとして殺された。
彼女たちはテュイアスたち(「鼓舞された」の意)あるいはバッケたち(「バッコスの女たち」)とも呼ばれた。
マルシュアスMarsyas
プリュギアPhrygia地方に住んだサテュロスsatyrの1人。
姉妹のメドゥサMedusaの死を悼むゴルゴンたちGorgonsの悲嘆を模倣して、アテナAthenaは、普通のものより1オクターブ低い音程の笛fluteを作った。
しかしこの楽器を吹くと顔がゆがむので、アテナAthenaは笛fluteを呪って投げ捨ててしまった。
それをマルシュアスMarsyasが見つけた。
彼はアテナAthenaに打たれても、その笛fluteを吹いて上手になり、アポロンApolloに音楽の競技を挑んだ。
勝者は敗者をどのように扱ってもよいという約束で、ムーサイMousai(ミューズたちMuses)が審判者になった。
2人の競技者は同じように巧みに演奏したが、最後にアポロンApolloがマルシュアスMarsyasに楽器を逆さまにして演奏できるかと挑んだ。
竪琴ではできてもフルートfluteではできない相談である。
そのためマルシュアスMarsyasが敗れアポロンApolloは彼を松の木に縛って吊るし、全身の皮を剥いだ。
彼の血、または彼の友人であった妖精やサテュロイsatyrsが流した涙は、マルシュアス川the river Marsyasとなった。
アポロンApolloがマイアンドロス川the Maeanderに投げ込んだ笛fluteはシキュオンSicyonで発見され、羊飼いまたは音楽師であったサカダスSacadasによってアポロンApolloに捧げられた。
ローマ時代には、いささか意外だが、マルシュアスMarsyasの名はローマ市民共同体の自由と、それを保証する司法権を意味した。
ミダスMidas
ゴルディアスGordiusと、テルメッソスTelmissus(リュキアLycia)の女預言者またはキュベレCybeleとの間の息子。
ミダスMidasは父からプリュギアPhrygia王位を継いだ。
彼にまつわる神話はいくつかある。
その1つは次のようなものである。
ディオニュソスDionysusの師だった老シレノスSilenusがリュディアLydiaの田舎の人々peasantsによって酔っているところを捕らえられ、花の首飾りをつけさせられてミダスMidas王の前に引き出された。
シレノスSilenusがディオニュソスDionysusのお供だと知ったミダスMidasは、彼を10日間昼夜を問わず贅沢にもてなした。
それからミダスMidasはシレノスSilenusをリュディアLydiaに連れて帰り、ディオニュソスDionysusに戻した。
ディオニュソスDionysusはシレノスSilenusの帰還を喜んで、ミダスMidasに望むものは何でもやろうと言った。
王は手に触れるものがすべて黄金goldになることを望んだ。
ミダスMidasは最初その結果に大喜びしたが、彼の喜びは、食物や飲物までもが黄金goldに変わっていくと、恐怖に変わった。
彼がとうとう願いを払い下げにしてほしいと祈ると、ディオニュソスDionysusはパクトロス川the river Pactolusで身を浄めるよう言った。
この話には異説があって、それによるとシレノスSilenusがひそかに夜自分の庭の泉に水を飲みに来るのを知ったミダスMidasは、水の中に葡萄酒を混ぜてシレノスSilenusを酔わせ、彼を捕らえた。
ミダスMidasはシレノスSilenusに賢者の言葉を教わりたかったのであり、それは首尾よくミダスMidasに伝えられた。
またある話は、アポロンApolloとパンPan(ないしは別の説によればマルシュアスMarsyas)との間の音楽競争にまつわるものである。
審判官だったトモロスTmolusがアポロンApolloに軍配をあげたとき、ミダスMidasが反対の意を表明したので、アポロンApolloはミダスMidasの愚かさに対して彼にロバassの耳earsを与えた。
ミダスMidasはプリュギア帽を被ってあらゆる人々の目から恥を隠すのに成功したが、床屋the barberにだけは耳earsを見せざるを得なかった。
秘密を守らなければ死刑だと脅されてはいたが、床屋the barberは黙っていることができず、地面に穴を掘って秘密を穴の奥へ呟き、穴を埋めた。
ミダスMidasにとって不幸なことに、その地面から葦reedが生え、そよ風にないだとき、葦reedは全世界に向かって「ミダス王の耳はロバの耳!King Midas has an ass' ears.」と囁いたのである。
ヘリオスHelios (ソルSol)
ティタン神族TitansのヒュペリオンHyperionとテイアTheiaとの息子son。
太陽sun、あるいはその擬人神Personification。
ローマ名Roman mythologyは太陽sunを意味するソルSol。
ヒュペリオンHyperion(「上なるもの」)とポイボスPhoebus(「輝ける」)はともにヘリオスHeliosと同一視されるか、あるいはヘリオスHeliosの枕詞(まくらことば)stock epithetとして使われる敬称であったが、いつしか別個の神になった。
ヒュペリオンHyperionはときにヘリオスHeliosの父fatherとも言われ、ポイボスPhoebusもアポロンApolloの枕詞(まくらことば)stock epithetとして使われる。
ヘリオスHelios同様、太陽光線rays of the sunを象徴する黄金Goldenの弓矢bow and arrowを持つアポロンApolloは、やがて太陽神Sun godと混同され、ヘリオスHeliosと同一視Identityされるようになった。
天上から世界のすべてを見はるかし、すべてを聞くヘリオスHeliosは誓言の神とも言われ、突然姿が消えた娘daughter・ペルセポネPersephoneの行方を捜すデメテルDemeterが困り果てて、最後に相談するのもヘリオスHeliosである。
信仰の対象になることはほとんどなく、神話に登場するのもパエトンPhaethonの物語のときくらいである。
パエトンPhaethonの物語で描かれるヘリオスHeliosは、4頭立ての火の車chariot of the sunを駆る御者であり、曙の女神・エオスEosに先導されて、東より出て天空を横切り西に沈む、とされている。
のちにこの話は潤色されて、西に沈んだヘリオスHeliosは、世界の周囲を取り巻いて流れるオケアノスOceanusに浮かぶ大きな黄金の杯great golden cupに乗って、夜のうちに東へ帰ると言われた。
ヘリオスHeliosには正妻・ペルセPerse(あるいはペルセイスPerseis)の他多くの女性たちと交わって生まれた多くの子供たちがいる(ヘリアデスHeliades)が、レウコトエLeucothoeとも情を交わした。
彼女のもとには彼女の母mother・エウリュノメEurynomeの姿で訪れたが、それを知ったヘリオスHeliosのかつての愛人・クリュティエClytieは嫉妬し、ペルシア王であるレウコトエLeucothoeの父father・オルカモスOrchamusに密告した。
父fatherは娘daughterを生きたまま土に埋めてしまった。
悲しんだヘリオスHeliosは盛り上がった土の上にアムブロシアambrosiaを注いだ。
するとそこから香しい乳香樹Frankincense treeが生えた。
一方クリュティエClytieは衰弱し、いつの間にかヘリオトロープheliotrope(向日性の草木)の花に変わった。
しかし、花になってもなおその顔は、天空の太陽を追って首をかしげている。
ヘリオスHeliosの度重なる愛情のもつれは、アプロディテAphroditeが仕組んだものと言われる。
ヘリオスHeliosによってアレスAresとの情事を夫のヘパイストスHephaestusに密告されて腹を立てたのである。
ヘリオスHeliosはかつてヘラクレスHeraclesを助けたことがあるが、これもヘラクレスHeraclesに脅かされたためである。
ヘラクレスHeraclesはエリュテイア島ErytheiaのゲリュオンGeryon狩りに行くとき、炎天のリビュアLibyaの砂漠を歩きながら、太陽神Sun godに向かって弓を引き絞り、その暑熱を呪った。
そのためヘリオスHeliosは、自分の黄金の大杯great golden cupの使用を許し、大洋・オケアノスOceanusの流れを渡って目的地に着けるよう手を貸したのである。
ゼウスZeus大神が地上の国々を神々に分け与えているとき、太陽の車chariot of the sunを御していてその場に居合わせなかったヘリオスHeliosは自分の持ち分を貰い損ねた。
気の毒に思ったゼウスZeusは、新しく出現した島・ロドス島Rhodesを彼に与えた。
ロドス島RhodesはヘリオスHelios神崇拝が盛んな唯一の島であり、島を支配したヘリオスHeliosの3人の孫、カメイロスCamirus、リンドスLindus、イアリュソスIalysusの名は島の主な町の名となって残っている。
ロドス港の入口に立っていたというロドス島の巨像the Colossus of Rhodesは、光線を表す放射状の冠を被ったヘリオスHelios像だったと言われる。
ヘリオスHeliosはポセイドンPoseidonとコリントス(コリント)Corinthの地を争ったこともあるが、調停に入ったブリアレオスBriareosからコリントスCorinthの要塞・アクロコリントスacropolis of Corinthを与えられ、息子sonのアイエテスAeetesがその地を治めた。
パエトンPhaethon
太陽神Sun god・ヘリオスHeliosとオケアニスOceanisであるクリュメネClymeneとの間の息子son。
少年の頃、「ヘリオスHeliosはお前の父親fatherではない」と友人・エパポスEpaphusから嘲(あざけ)られた。
この頃すでに母mother・クリュメネClymeneはエジプトの王the King of Egypt・メロプスMeropsと結婚していたが、彼女は息子sonを太陽sunが上る東方のヘリオスHeliosの宮殿Palaceに送った。
長い旅の果てにパエトンPhaethonはその宮殿Palaceに到着した。
父親fatherらしい愛情を示そうとヘリオスHeliosは、何でも望みは叶えてやろうと息子sonに言った。
パエトンPhaethonは大空を駆け巡る太陽の戦車chariot
of the sun(二輪戦車、チャリオット)を1日御したいと願った。
ヘリオスHeliosは向こう見ずな願いに恐れをなしたが、応じざるを得なかった。
輝く戦車chariotに4頭の馬horsesが軛(くびき)で繋がれ、パエトンPhaethonが手綱をとった。
父father・ヘリオスHeliosは心配して指示を色々と与えたが、一たび空に上るとパエトンPhaethon少年は夢中になってしまい、馬たちhorsesは彼を運び去った。
彼らはまず天空を横切る大きな焼け傷の跡をつけたが、それは天の川Milky Wayになった。
それからパエトンPhaethonがますます目がくらむようになると、彼らは下方へと突っ込んで地球を焦がし、日照りdroughtを引き起こしたり、赤道equator付近の人々の肌を真っ黒にしたりした。
パエトンPhaethonが引き起こす破壊Destructionを見て驚いたゼウスZeusは雷霆(らいてい)Thunderを投げつけ、そのため少年は戦車chariotから放り出された。
彼の亡骸は火を吹きながらエリダノス川the river Eridanusへ落ちた。
ニンフnymphである彼の姉妹sisterたちは、少年の落下を目撃し、川岸に立って彼の死を悼んで泣いた。
嘆き悲しむ彼女たちはやがてポプラの木Poplar treeになった。
ポプラpoplarは現在でもその川(現在のポー川)の両岸によく見られる。
パエトンPhaethonの親戚の1人でイタリアItalyのリグリア人の王であったキュクノスCycnusも哀悼の意を表しにやって来て、姿が白鳥swan(これが彼の名前の意味)になった。
「白鳥の歌swan song」という言葉は、彼を悼む歌から派生している。
ゼウスZeusはこの惨事のあとで地球を冷やすために洪水を送ったのだと言う者もある。
星座constellationの馭者座(ぎょしゃ)AurigaはパエトンPhaethonを記念すると考えられた。
ヘリアデスHeliades
太陽神Sun godヘリオスHeliosの7人の娘daughterたちである。
その名前は「太陽の娘たち」を意味する。
弟younger brotherにパエトンPhaethonがいるが、太陽の戦車chariot of the sunの暴走を止めるためにゼウスZeusが投げた雷Thunderによって弟younger brotherが死んだため、ヘリアデスHeliadesは嘆き悲しみポプラの木Poplar treeに姿を変え、またその涙Tearsは琥珀Amberになったという。
アポロ11号月着陸船 Apollo 11 Lunar
Lander 2019年(令和元年)
アポロ11号月着陸船 Apollo 11 Lunar
Lander 2019年(令和元年)
セレネSelene (ルナLuna)
「月moon」の意。
月の女神lunar goddessで、ローマ人RomanにはルナLunaの名で知られた。
ヘシオドスHesiodによれば、両親parentsはヒュペリオンHyperionとテイアTheiaと言われるが、その他にパラスPallasとかヘリオスHeliosとかエウリュパエッサEuryphaessaという言い伝えもある。
彼女はゼウスZeusとの間にペルセPerse(「露」)とパンディアを産んだ。
パンPanは美しい白い羊毛White woolを贈ってセレネSeleneを誘惑した。
彼女の最もよく知られている神話はエンデュミオンEndymionとの関係で、彼女が彼を永遠の眠りlive forever in
sleepにつかせたというものである。
後にアルテミスArtemisが月moonと結び付けて考えられるようになると、セレネSeleneはだんだん神話作家の関心を呼ばなくなった。
エンデュミオンEndymion
ゼウスZeusの息子son・アエトリオスAethliusと、アイオロスAeolusの娘daughter・カリュケCalyceとの息子son。
エンデュミオンEndymionには3人の息子sonたち、アイトロスAetolus、パイオンPaeon、エペイオスEpeiusがあった。
彼は通常エリスElisの王Kingとされ、オリュムピアOlympiaからクレタ人Cretanの王King・クリュメノスClymenusを追い払って、オリュムピアOlympiaを自分の領土に加えたと言われる。
彼は息子sonたちに競走させて勝った者に王座throneを譲ることとし、エペイオスEpeiusがその競走に勝った。
月の女神lunar goddess・セレネSeleneはエンデュミオンEndymionに恋し、彼の50人の娘daughterたちを産んだ。
その後、彼女は彼がいつかは死ななければならないという考えに耐え切れず、彼を永遠の眠りlive forever in
sleepにつかせた。
その時から、彼はカリアCariaのラトモス山Mount Latmus(一説によれば、そこが彼の故郷だという)の洞穴caveの中で、若く美しいまま眠り続けることとなった。
他の説では、ゼウスZeusが彼の願いを聞き入れて、彼を洞穴caveの中で、老いることなく永遠に眠り続けるようにしたという。
ラトモス山Mount Latmus近くのカリアCariaのヘラクレイア市Heracleiaの人々は、彼のためにその地に神殿を建てた。
しかしながらエリスElisでは、彼が永遠に眠り続けているという物語は知られていなかった。
彼の墓がオリュムピアOlympiaにあったからである。
エオスEos (アウロラAurora)
曙の女神goddess of the dawn。
ローマ人RomanたちにアウロラAuroraとして知られていた。
ティタン神族TitansのヒュペリオンHyperionと、ティタン女神TitanessesのテイアTheiaとの娘daughter。
太陽神Sun god・ヘリオスHeliosと月の女神lunar goddess・セレネSeleneとの姉妹sister。
彼女の最初の夫husbandがティタン神族TitansのアストライオスAstraeusであって、彼との間にゼピュロスZephyr、ノトスNotus、ボレアスBoreasなどの風や、星々や暁の明星morning star・エオスポロスEosphorusなどを産んだ。
彼女は2頭の馬horsesに引かれた戦車chariotを駆って、兄弟brotherのヘリオスHeliosとともに大空を走った。
彼女の馬horsesはパエトンPhaethon(「輝かしきもの」)とラムポスLampus(「光」)と呼ばれた。
ホメロスHomerは彼女を「早起きの」「ばら色の指を持った」「サフランの衣をまとった」女神goddessと呼んでいる。
彼女は何人もの若く美しい人間の男性に恋をしたが、いつも不幸な結果に終わった。
それは、彼女が軍神・アレスAresに恋慕したために、アプロディテAphroditeの憎しみを招いたことが原因であった。
彼女は人間の1人ティトノスTithonusと結婚し、彼を不死にしてくれるようにゼウスZeusに懇願した。
しかし彼女は、彼が永遠の若さを保つようにと願うのを忘れてしまったため、ティトノスTithonusは彼女と暮らしながら無限に老い続け、ついには蝉のように干からび、蝉のような声で喋るようになった。
とうとうエオスEosは彼を寝室に閉じ込め、彼のベッドから逃れるために、日々ますます早く起きるようになった。
彼らの子供たちが、エチオピア王メムノンMemnonと、アラビア王エマティオンEmathionである。
エオスEosは、ある早朝アッティカAtticaで、ケパロスCephalusが狩りをしているのを見て、彼を誘惑した。
彼は、妻wife・プロクリスProcrisを愛していたので、大いに嘆き悲しんだ。
エオスEosはケパロスCephalusの息子・パエトンPhaethonを産み、彼とプロクリスProcrisとの双方にお互いへの嫉妬心を植え付け、そのため2人は仲違いし、結局はプロクリスProcrisが夫husbandの手にかかって死ぬことになった。
巨人の狩人giant huntsman・オリオンOrionもエオスEosの恋人の1人だった。
エオスEosは彼をデロス島Delosにさらって行き、処女神virgin goddess・アルテミスArtemisを憤激させた。
デロス島Delosは彼女にとって神聖な島だったからである。
アルテミスArtemisはそのためオリオンOrionを殺した。
オーロラAurora
オーロラAuroraは、天体Celestial bodyの極域Polar region近辺に見られる大気atmosphereの発光現象Luminous phenomenonである。
極光(きょっこう)polar lightsともいう。
極域Polar regionにより北極光(ほっきょくこう)northern lights、南極光(なんきょくこう)southern lightsともいう。
オーロラAuroraという名称はローマ神話Roman mythologyの暁の女神goddess of the dawnアウロラAuroraに由来する。
ゼピュロスZephyrとクロリスChloris
ゼピュロスZephyr
西風の神god of the west wind
ティタン神族TitansのアストライオスAstraeusと曙の女神goddess of the dawn・エオスEosの息子sonの1人。
彼はスパルタSparta近くのアミュクライAmyclaeの美少年Beautiful boy・ヒュアキントスHyacinthusに恋した。
アポロンApolloもヒュアキントスHyacinthに求愛し、彼の方が少年の好意を得ると、ゼピュロスZephyrは仕返しに、アポロンApolloが投げた円盤diskがそれて若者の頭に当たるように仕向けた。
そのためにヒュアキントスHyacinthは死んだ。
ゼピュロスZephyrはハルピュイアイHarpiesの1人がオケアノスOceanus川近くの牧草地で牝の子馬の姿をして草を食べていたとき、彼女を妊娠させた。
そしてアキレウスAchillesの神馬sacred horse・クサントスXanthusとバリオスBaliusとが生まれた。
一般に西風west windは風の中で最も穏やかで歓迎される風と考えられ、しばしば好ましいものとして、厳しい北風north wind・ボレアスBoreasと比較される。
プシュケPsycheを乗せてクピドCupid(エロスEros)(アモルAmor)の城に彼女を運んだのもゼピュロスZephyrである。
彼の妻wifeは時に虹の女神Rainbow goddess・イリスIrisであると言われる。
野原で遊んでいたクロリスChlorisはゼピュロスZephyrに見染められ、さらわれて行き結婚した。
ゼピュロスZephyrは自分の愛が真実であることを示すために、花を咲かせるすべてのものの支配権をクロリスChlorisに与えた。
オリオンOrion
巨人の狩人giant huntsman。
すでにホメロスHomerの時代にオリオンOrionに因んで星座constellationが名づけられていた。
彼の誕生をめぐる一説によれば、ボイオティアBoeotiaのヒュリアHyriaの建設者であったヒュリエウスHyrieusは子宝Child treasureに恵まれなかったが、ゼウスZeusとヘルメスHermesとポセイドンPoseidonを手厚くもてなして、この欠陥を治して欲しいと願った。
3神はヒュリエウスHyrieusに、彼らのために犠牲にした牡牛の皮を取って来るように命じた。
それからヒュリエウスHyrieusが皮の上に放尿したあと、3神はその皮を地中に埋めた。
9か月たつと、埋めた場所から男の子baby boyが生まれたので、ヒュリエウスHyrieusはその子をオリオンOrion(「尿」の意のオウリアに由来する)と名付けた。
オリオンOrionは巨人giantに成長した。
しかし別の説ではポセイドンPoseidonとミノスMinosの娘daughter・エウリュアレEuryaleがオリオンOrionの両親parentsであると言われる。
オリオンOrionは背が高かったので、海底に立って歩き、なお頭と肩を水面の上に出すことができた。
彼には多くの妾concubineがあった。
彼の妻wife・シデSide(「ざくろ」)はメニッペMenippeとメティオケMetiocheの2人の娘daughter・コロニデスCoronidesを産んだ。
しかしシデSideは不遜にも、ヘラHeraと美を競ったため、ハデスHadesの館に送られた。
それからオリオンOrionはキオス島Chiosに赴いたが、そこのオイノピオンOenopion王Kingは、もし彼が島から野獣を追い出してくれるなら、娘daughter・メロペMeropeを与えると約束した。
しかしあとになって王Kingはその約束を覆した。
そこでオリオンOrionが酔ってメロペMeropeを犯すと、オイノピオンOenopionは彼を盲目にし、海辺に彼を放り出した。
オリオンOrionは立ち上がり、レムノス島Lemnos, Limnosまでかろうじて歩いて渡った。
そこのヘパイストスHephaestusの鍛冶場blacksmith's workshopで、ケダリオンCedalionという少年を拾い上げ肩に乗せると、オリオンOrionは少年を案内役にして再び海に入り、太陽の光線めがけて東方へと歩いて行った。
光線は彼の視力を回復した。
それからオリオンOrionはキオス島Chiosに戻り、オイノピオンOenopionを殺そうとしたが、王KingはヘパイストスHephaestusの助けを借りて地下の部屋に隠れてしまっていた。
次にオリオンOrionはクレタ島Creteに赴き、アルテミスArtemisと一緒に狩りをした。
だが曙の女神goddess of the dawn・エオスEosが彼に恋をし、彼をさらって行った。
神々、とりわけアルテミスArtemisは、女神goddessが人間を恋人にしたことに嫉妬し、アルテミス自身の生地・デロス島Delosで、オリオンOrionを矢で射殺した。
アルテミスArtemisはオリオンOrionの死をめぐる他の諸説でも、同様に関わっている。
オリオンOrionは向こう見ずにも、円盤投げ競技Discus competitionで女神goddessに挑んだので死んだという。
別の説では、オリオンOrionがオピスOpisを犯そうとしたので女神goddessが射たという。
また、キオス島Chiosから野獣を追い払っている間、オリオンOrionはアルテミスArtemisを犯そうとしたが、女神goddessが地下から大蠍(さそり)scorpionを連れ出し、彼を刺し殺させたとも言われる。
また女神goddessがそうしたのは、地上のすべての動物を彼が殺してしまうことを恐れたためであるとも、あるいは女神goddessは実際にオリオンOrionと結婚しようと考えたが、そうと知った兄弟brother・アポロンApolloが、海の彼方の物体を指して、アルテミスArtemisにはあれを射ることはできまいと断言し、結果的にオリオンを殺すよう女神goddessを騙したためであるとも言われる。
アルテミスArtemisは言われたままに見事に獲物を射たが、それはオリオンOrionの頭だった。
オリオンOrionは岸からはるか離れた所を泳いでいたか、あるいは渡っていたのである。
この出来事を悲しんだアルテミスArtemisは、愛する者を星座constellationにして空に配置した。
しかしオリオン座Orion, the Hunterには別のいわれがある。
オリオンOrionがボイオティアBoeotiaでアトラスAtlasの娘daughterたち・プレイアデスPleiadesを見染め、彼女たちに恋心を抱いて追いかけた。
プレイアデスPleiadesと彼女たちの母mother・プレイオネPleioneは逃げて、皆、星になった。
オリオンOrionが空でプレイアデスPleiadesを追っているように見えるのはそのためであるという。
サルモネウスSalmoneus
アイオロスAeolusとエナレテEnareteの息子son。
サルモネウスSalmoneusは兄弟brotherのシシュポスSisyphusにテッサリアThessalyを追われエリスElisに移ると、そこに都市を建設し自らの名に因んでサルモネSalmoneと名づけた。
彼の最初の妻wifeはアレオスAleusの娘daughter・アルキディケAlcidiceで、彼との間にテュロTyroを産んだ。
アルキディケAlcidiceの死後、彼はシデロSidero(「鉄の女」)と結婚したが、テュロTyroがポセイドンPoseidonによって妊娠したと主張すると、シデロSideroはテュロTyroを虐待した。
ウェルギリウスVergilius(バージルVergil)によれば、サルモネウスSalmoneusは神を敬わず高慢であったために、死後、タルタロスTartarusの一番奥の方に置かれたという。
それは彼が自分はゼウスZeusと同じくらい偉い、あるいはそれ以上であるという振りをし、その主張を立証するために、雷電に似せて松明を投げ、雷鳴のつもりで釜や干した獣皮を引きずりながら、猛烈な勢いで戦車を疾駆させたからである。
彼はゼウスZeusがとるべき犠牲の分け前すら自分の取り分とした。
そのためゼウスZeusはサルモネウスSalmoneus王と彼の都市を雷霆で撃ち、王も民もともに地上から消してしまったという。
丘陵地の家 Hillside House 2011年(平成23年)
丘陵地の家 Hillside House 2011年(平成23年)
オルペウスOrpheus
ギリシア神話Greek mythology中、最高の詩人poet。
彼が妻wife・エウリュディケEurydiceを失ったことは、ロマンティックな神話の中で最も有名な主題となっている。
彼はアポロンApolloの息子sonないしは弟子Discipleで(またはトラキア王King of Thrace・オイアグロスOeagrusの息子sonとも言われる)、母motherはムーサMousa(ミューズMuse)のカリオペCalliopeであった。
彼はまたディオニュソスDionysusの信奉者believerでもあった。
ディオニュソス信仰the cult
of Dionysusは、トラキア地方Thraceとも縁が深いものである。
このオルペウスOrpheusの名に因んだオルペウス教Orphism(オルペウス秘教Orphic mysteries)という神秘的な宗教信仰は、もし彼が(神話のベールを剥がされて)歴史上の人物であったとするなら、おそらく彼によって創始されたものと考えられるだろう。
伝説によれば、オルペウスOrpheusは素晴らしい音楽家musicianだったので、彼が歌いリラlyre(竪琴harp)を奏でると野獣も山川草木もみなうっとり聞き惚れ、動物たちが彼のあとをついて行ったという。
木や石ですら、彼の音楽musicを聴きにやって来たと考えられている。
彼はコルキスColchisへ航海したアルゴナウタイArgonautsに加わり、道中の荒波を楽の音でなだめ、乗組員の荒くれた心を鎮めた。
彼は一行をサモトラケSamothraceに連れて行き、そこでカベイロイCabari, Cabiriの秘教mysteriesに入会させた。
彼らがコルキスColchisに着いたとき、オルペウスOrpheusがアレスAresの森の木を護っていた竜dragonを音楽musicの調べで眠らせたので、イアソンJasonは黄金の羊の毛皮the Golden Fleeceを取ることができたとする説もある。
またオルペウスOrpheusはセイレネスSeirenes, Sirensの歌声をリラlyre(竪琴harp)の音でかき消したので、セイレネスSirensは歌声の魅力でアルゴナウタイArgonautsに彼らの目的を忘れさせることができなかった。
トラキアThraceに戻ったオルペウスOrpheusは、水の精Water nymph・ナイアスnaiadないしは樫の木の精oak
nymph・ドリュアスdryadであったエウリュディケEurydiceを妻wifeとして熱愛した。
しかし程なくして、アリスタイオスAristaeusが川辺の草地で彼女に懸想して追いかけた。
エウリュディケEurydiceは彼から逃れようとして、蛇snakeを踏みつけてしまった。
蛇snakeにひどく咬まれた彼女はそのまま死んだ。
やるせない悲しみに襲われたオルペウスOrpheusは、歌うこともリラlyre(竪琴harp)を弾くこともやめ、黙してふさぎ込んだ。
とうとう彼はラコニアLaconiaのタイナロンTainaronまでさ迷って行き、そこから冥界the Underworldにつながる道に進んだ。
ステュクス川Styxや番犬watchdog・ケルベロスCerberusが護る門に来たとき、彼は再びリラlyre(竪琴harp)を奏でた。
そのあまりにも美しい調べに、渡し守ferrymanのカロンCharonやケルベロスCerberusでさえ心を動かされ、オルペウスOrpheusに川を渡らせた。
彼の音楽musicによって、黄泉の国Underworldの亡霊Ghostたちは恍惚となり、ハデスHadesやペルセポネPersephoneですら気持ちをなごませた。
彼らは彼に好意を示し、ある1つの条件をつけてエウリュディケEurydiceを連れて帰らせてやろうとした。
それは、オルペウスOrpheusが先に道を進み、2人が地上に戻り着くまでは決して振り返ってエウリュディケEurydiceを見てはならない、というものだった。
この話の最も古い説によると、オルペウスOrpheusはこの課題に成功し、彼が信奉したディオニュソスDionysusが死をも超越する力を持っていることを証明した。
しかしウェルギリウスVergilius(バージルVergil)やオウィディウスOvidが語る話では、オルペウスOrpheusは前方に道の終わりを示す光を見たとき、我慢できずにうしろを振り返り妻wifeの顔を見てしまった。
そしてこの熱愛のゆえに、彼は妻wifeをうしなった。
彼女は霞の精霊と化し、ハデスHadesの館へとかき消えていったのである。
オルペウスOrpheusは再びあとを追おうとしたが、今度は行く手を妨げられ、彼の音楽musicもすべて功を奏さなかった。
今やオルペウスOrpheusは魂の抜け殻になって、世捨て人の生活を送り、すべての女性を遠ざけた。
しかしすぐに、トラキアThraceのマイナデスMaenads(オルペウスOrpheusはしばしば彼女たちの中にあってディオニュソスDionysusの酒宴を催した)が、自分たちを無視する彼に恨みを抱いた。
そしてある日、彼女たちは彼を見つけると、ちょうどザグレウスZagreusがティタン神族Titansに八つ裂きにされたように、彼を八つ裂きにした。
幾つかの説ではマイナデスMaenadsは皆オルペウスOrpheusに欲情を抱き、誰が彼を得るかで争っているときに、彼を裂いてしまったという。
彼の首のみが裂かれるのを免れた。
首はヘブロス川に落ち、押し流されて海に辿り着くのだが、あちらこちらと揺れながら常に「エウリュディケEurydice!」と叫んでいた。
ついにレスボス島Lesbosに流れ着くと、人々はそれを埋葬して、神殿と神託所を築いた。
それ以後、その島の人々は詩的才能に恵まれるようになった。
オルペウスOrpheusの身体の断片はムーサイMousai(ミューズたちMuses)が集め、にピュリアに葬った。
彼のリラlyre(竪琴)は星座constellationとして天に配置された(琴座(ことざ)the Lyre)。
オルペウスOrpheusはムサイオスMusaeus、エウモルポスEumolpus、リノスLinusなど他のギリシアGreekの詩人poetたちを教えたと言われる。
エウリュディケEurydice
トラキアThraceのハマドリュアスHamadryad(樫の木の精oak
nymph)。
オルペウスOrpheusに愛された。
ムネモシュネMnemosyne (記憶Memory)
ウラノスUranus(天)とガイアGaea(the Earth)(地)の娘でティタン女神the Titan goddessの1人。
ゼウスZeusと交わってムーサイthe Musesを産んだ。
ヘシオドスHesiodの『神統記(しんとうき)Theogony』によると、ムネモシュネMnemosyneはエレウテールの丘の主で、ピエリアPieria(中央マケドニアCentral Macedonia)においてゼウスZeusと9日間に渡って添い臥し、人々から苦しみを忘れさせる存在として9人のムーサイthe Musesを産んだという。
ムネモシュネMnemosyneは名前をつけることを始めたとされ、また学問の道を究めるときにはムネモシュネMnemosyneとムーサイthe Musesに祈願された。
なお、小惑星番号57番の小惑星帯の小惑星asteroidはムネモシュネMnemosyneにちなんで命名された。
カリオペCalliope (「美声」"beautiful-voiced")
文芸の女神Goddess of literatureムーサイthe Musesの1神。
叙事詩epic poetryのムーサthe Muse。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
9神のムーサイthe Musesの長女Eldest daughterで、「叙事詩epic poetry」(叙情詩、エレジー)を司る。
表される際の持ち物Emblemは、書板Writing tabletと鉄筆Stylusであるが、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraのかなり後期になってからである。
太陽神Sun godアポロンApollo(もしくはオイアグロスOeagrus)とのあいだにオルペウスOrpheusをもうけたほか、リノスLinus、レソスRhesus、セイレネスSirensの母motherとする説もある。
弁舌の女神Goddess of speechともされ、ムーサイthe Musesの中で最も賢いとされる。
アドニスAdonisをめぐるアプロディテAphroditeとペルセポネPersephoneとの争いを仲裁するなど、ムーサイthe Musesの中で最も活躍の場が多い女神Goddessでもある。
クレイオClio
(「名声made famous」)(歴史History)
9柱の文芸の女神Goddess of
literatureムーサイthe Musesの1人。
歴史の女神the muse of history。
その名前は「祝福する女」の意で、祝福するto celebrateに由来する。
ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughterたちの一人。
ムーサイthe Musesのうち「英雄詩heroic poem」と「歴史History」を司り、表される際の持ち物Emblemは巻物Scrollsあるいは巻物入れScroll caseなどであるが、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraもかなり後期になってからである。
アプロディテAphroditeに対して「女神の身であるにもかかわらず、人間アドニスAdonisを恋した」と嘲笑したため、呪いによりマケドニアMacedoniaのペラ(ピーエリス)王KingピエロスPierusを恋するようになり、その間にヒュアキントスHyacinthという息子sonを産んだ。
別な伝説では、婚姻の神ヒュメナイオスHymenaeusの母motherでもあるという。
その名の語源はギリシア語Greekで「物語るto recount」「名声を得るto make famous」という意味の κλέω または κλείω に由来する。
エウテルペEuterpe
(「喜びdelight」)(笛吹きflutist)
ムーサイthe Musesの一人。
音楽の女神the muse of music。
抒情詩の女神the muse of lyric poetry。
「喜ばしい女」の意で、ギリシア語Greekの Ευ (ふさわしい)と τέρπ-εω (喜ばす)から。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
ムーサイthe Musesひとりひとりに役割が与えられた時に「快を与えるもの」として性格付けられ、後には抒情詩のムーサthe muse of lyric poetryとされた。
アウロスaulosないしはフルートfluteを持って描かれる。
アウロスaulosの発明者だとも言われているが、その点ではマルシュアスMarsyasの方が有名である。
アポロドロスによると、エウテルペEuterpeはストリュモン河神the river god Strymonによって孕み、男の子レソスRhesusを生んだ。
レソスRhesusはトラキア人the Thraciansを統べることとなったが、トロイアTroyでディオメデスDiomedesにより殺害された。
エラトErato
(「愛らしいlovely」)(抒情詩lyric poetryまたは歌)
9柱の文芸の女神Goddess of
literatureムーサイthe Musesの1人。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
9柱のムーサイthe Musesのうち、「独唱歌monody」(独吟叙事詩)を司る。
表される際の持ち物Emblemは、竪琴harpだが、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraのかなり後期になってからである。
他のムーサイthe Musesと同様、単独の神話はほとんど無い。
音楽家musicianタミュリスThamyrisはエラトEratoの子といわれることがある。
メルポメネMelpomene
(「歌うことto sing」)(悲劇tragedy)
「女性歌手Female singer」の意。
文芸の女神Goddess of literatureムーサイthe Musesの1柱。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
絵画などでは有翼の女性として表される事も。
9柱のムーサイthe Musesのうち、「悲劇tragedy」「挽歌elegy」を司る。
楽器リラlyre(竪琴harp)(古代ギリシアの竪琴)の女神goddessでもあり、表される際の持ち物Emblemは、仮面mask・葡萄の冠Grape crown・靴bootsなどであるが、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraのかなり後期になってからである。
アケロオス河神the river god Achelousとの間にセイレネスSirensをもうけた。
ただしこれはカリオペCalliopeやテルプシコラTerpsichoreとする説もある。
また音楽家musician・タミュリスThamyrisもメルポメネMelpomeneの子といわれる。
ポリュヒュムニアPolyhymnia
9柱の文芸の女神Goddess of
literatureムーサイthe Musesの1人。
讃歌Hymnと雄弁eloquenceを司る。
名前は「多くの歌many hymns」を意味する。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
トリプトレモスTriptolemus、エロスEros、オルペウスOrpheusの母motherとされることがある。
たいへんに厳格very seriousな女性で、憂いpensiveに沈み、瞑想meditationにふける。
指を口にあてholding a finger to her mouth、長い外套long cloakとベールveilを身に付けdressed in、ひじを柱にもたれたresting her elbow on a pillar姿で描かれる。
この女神Goddessは、不朽の名声immortal fameを得る作品worksを書いた作家writersに名声fameを運んでくる。
しばしば、幾何学geometry、修辞学Rhetoric、瞑想meditation、農業Agricultureを司る神godとも見なされる。
テルプシコラTerpsichore
「踊りの楽しみdelight in dancing」の意。
文芸の女神Goddess of literatureムーサイthe Musesの1柱。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
9柱のムーサイthe Musesのうち、「合唱Chorus」「舞踊dance」を司る。
表される際の持ち物Emblemは、リラlyre(竪琴harp)だが、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraのかなり後期になってからである。
アケロオス河神the river god Achelousとの間にセイレネスSirensをもうけたとする説があるが、通常はメルポメネMelpomeneとされる。
またリノスLinusやレソスRhesusの母motherとされることもある。
タレイアThalia
ムーサイthe Musesの一人。
喜劇の女神the muse of comedy。
喜劇comedyをつかさどる。
その名前はギリシア語Greekの「開花するflourishing」による。
すべてのムーサイthe Musesと同じく大神ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
アポロンApolloによってコリュバンテスthe Corybantesを生んだと見なされた。
タレイアThaliaは陽気な雰囲気joyous airの若い娘young womanで、木蔦(きづた)の冠Ivy crownをかぶり、半長靴bootsをはいて、手には喜劇の仮面comic maskを持っている。
その彫像statuesの中には、ラッパbugleやメガホンtrumpetを持っているものもあり、古代の喜劇ancient comedyで役者の声actors' voicesを支えるsupportのに用いた楽器Musical instrumentとされる。
ウラニアUrania
(「天空の'heavenly' or 'of heaven'」)
ムーサイthe Musesの1人。
ゼウスZeusとティタン女神the Titan goddessのムネモシュネMnemosyne(「記憶Memory」)との娘daughter。
天文の女神the muse of astronomy。
9柱のムーサイthe Musesうち、「占星術astrology」と「天文astronomy」を司る。
表される際の持ち物Emblemは杖Caneとコンパスcompass、天球儀celestial globeなどである。
また、星座constellationの一つである六分儀座Sextansの六分儀sextantも本来は彼女の持ち物Emblemであると言う。
しかし、この様にムーサイthe Musesが細分化されたのはローマ時代Roman eraもかなり後期になってからである。
彼女は未来予知future predictionに通じており、神官Priestや巫女Priestessが多く彼女の元を訪れて教えを乞うたと言われている。
後にリズムrhythmやメロディーmelodyを生んだと伝えられる音楽家musicianアムピマロスAmphimarusと結ばれてリノスLinusという子をもうけたと言う。
一説にはリズムrhythmやメロディーmelodyを発明inventionしたのはリノスLinusであるともいう。
また後にアポロンApolloとの間にヒュメナイオスHymenaeusを生んだともされるようになった。
ピエリデスPierides
オリュムポス山Mt. Olympus近くのピエリアPieria(中央マケドニアCentral Macedonia)の名祖ピエロスPierusと妻エウヒッペEuhippeの9人の娘たち。
ピエリデスPieridesはムーサイthe Musesに歌の挑戦をしたが、審判官である妖精の一団を前に敗れた。
ピエリデスPieridesはその思い上がりのために、黒丸鴉(こくまるがらす)Daurian jackdawに変えられた。
黒丸鴉(こくまるがらす)Daurian jackdaw